漢方のアンチエイジングの考え方とは?漢方薬・食材も紹介!

アンチエイジングとは、抗加齢や抗老化を意味する言葉です。
美容分野の言葉というイメージがある方もいるかもしれませんが、医学的には健康長寿やQOL(生活の質)改善を目指す「予防医学」を意味する言葉として使われることが一般的です。
今回は、予防医学とも相性のよい漢方をテーマに、漢方におけるアンチエイジングの考え方や、アンチエイジングによい漢方薬、食材などをご紹介します。
漢方におけるアンチエイジングとは
結論からお伝えすると、漢方におけるアンチエイジングとは、漢方薬で主に「腎虚(じんきょ)」を改善することだと言えます。
そもそも漢方とは?腎虚とは?
まずは基礎知識からお伝えします。
そもそも漢方とは
漢方は中国生まれの医学ですが、日本に伝わったのは1400年以上前。
その後、日本の気候や体質などに合わせて発展した医学を漢方と呼んでいます。
漢方と言えば漢方薬をイメージする方も多いと思いますが、漢方薬は2種類以上の生薬を組み合わせたもののことで、生薬は、薬効が期待できる植物、鉱物、動物などを加工したもののことです。
また、漢方には以下のような独特な考え方があり、その組み合わせによって症状の原因をつきとめたり、適切な漢方薬を選んだりすることが一般的です。
考え方 | 詳細 | 例 |
---|---|---|
気血水(きけつすい) | ・人間の体を構成する基本的な要素のこと ・それぞれの不足、偏り、停滞などが不調の原因となる | ・気虚(エネルギー不足):疲れやすくなる ・水滞(水分代謝などの滞り):むくみ |
証 | ・患者さんの状態、体質、症状などをあらわすもの ・薬を選ぶ際の参考にすることも多い | ・実証:体力、抵抗力のある人 ・虚証:体力がなく、弱々しい感じの人 |
五臓 | ・体内でのはたらきを5つに分けたもの | ・肝:代謝や内分泌、自律神経のはたらき ・心:中枢神経や循環器系のはたらき ・脾:消化器系のはたらき ・肺:呼吸器系のはたらき ・腎:エネルギーや泌尿生殖器系のはたらき |
未病を治療するのが漢方
漢方(東洋医学)では、まだ病気には至っていない軽い症状を指す「未病」という考え方があり、漢方は未病の治療にも適しています。
加齢や老化は病気ではないですが、老化に伴って様々な症状が生じたり、放置すると病気になったりすることもあるため、まさに未病の状態だと言えるでしょう。
つまり漢方は、アンチエイジングに適した医学だと言えます。
ポイントは「腎虚(じんきょ)」の改善
漢方では、前述した五臓の機能低下によって老化が引き起こされると考えられています。
なかでも老化に関わりがあるとされているのが、生命のエネルギーや泌尿生殖器系のはたらきをつかさどり、免疫機能や内分泌系などとも関わりのある「腎」の機能低下(腎虚)。
腎虚による症状としては、以下のようなものが挙げられます。
・疲れが取れない
・体調不良が増える
・体力がなくなる
・寝られない
・骨や足腰が弱くなる
・冷えやすくなる
・耳鳴り、耳の聞こえが悪くなる
・老眼、白内障などの目のトラブルが生じる
・忘れっぽくなる
・尿漏れ、頻尿などの尿トラブルが生じる
・性欲が低下する
・パサつき、白髪、抜け毛など、髪の不調を感じる
以上のことから、アンチエイジングのためには腎虚を改善することがポイントだと言えます。
なお、腎虚の中にも以下のように種類があるため、自分のタイプを知っておくとよいでしょう。
・腎陽(エネルギーの源)の不足:冷え、疲れ、だるさなど
・腎陰(水や血液などの源)の不足:のぼせ、ほてり、睡眠トラブルなど
・腎精(性機能の維持などにつながるエネルギー)の不足:性欲の低下など
その他の五臓による老化症状
腎(じん)、肝(かん)、心(しん)、脾(ひ)、肺(はい)を五臓と言います。
五臓はお互いに助け合ったり(相生)抑制し合ったり(相克)しているため、老化においても関連性大。
腎以外の機能低下による老化症状は以下の通りです。
五臓 | 老化症状の例 |
---|---|
心 | ・理解力の低下や物忘れ ・めまい ・動悸、息切れ ・腰痛 ・骨粗鬆症 |
肝 | ・イライラ、不安定、怒りっぽくなる ・不眠 ・視力低下などの目のトラブル |
脾 | ・食欲の低下 ・下痢や胃腸機能の低下 |
肺 | ・呼吸器の機能低下 ・風邪をひきやすくなる ・息切れ ・皮膚トラブル |
なお、腎のコントロールに心が関わっているため、心の機能が低下すれば老化も促進すると考えられています。
アンチエイジング(腎虚の改善)に効果が期待できる漢方薬
続いて、腎虚の改善に効果が期待できる漢方薬について見ていきましょう。
代表的なものとして、六味地黄丸(ろくみじおうがん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などが挙げられます。
六味地黄丸(ろくみじおうがん)
地黄(ジオウ)のほか、サンシュユ、サンヤク、タクシャ、ブクリョウ、牡丹皮(ボタンピ)の計6種類の生薬を配合した漢方薬。
腎の機能を高め、頻尿などの排尿トラブルのほか、むくみ、かゆみなどの改善に効果が期待できます。
八味地黄丸(はちみじおうがん)
六味地黄丸にケイヒ(シナモン)とブシ(トリカブトを加工したもの)を加え、計8種類の生薬を配合した漢方薬。
六味地黄丸と同じく腎の機能を高め、頻尿などの排尿トラブル改善を目指します。
さらに、体を温め、新陳代謝を促進する効果も期待できます。
冷えや口の渇き、むくみ、かゆみなどが気になる方に適しています。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
ハ味地黄丸に、ゴシツとシャゼンシ(オオバコ)という生薬を加えた漢方薬。
強い排尿トラブル(特に、尿量が少ないケース)や、足腰の痛み、だるさ、しびれなどの改善に効果が期待できます。
冷えや口の渇き、むくみ、かゆみなどが気になる方向きですが、排尿トラブルや痛みが強い方に特に適しています。
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
ニンジン(朝鮮人参)やジオウ、トウキ、ブクリョウ、ケイヒなど、計12種類の生薬を配合した漢方薬。
体力の低下、倦怠感、食欲低下、冷え、貧血、寝汗などの改善に効果が期待できます。
体力が虚弱な方や、精神的にも元気がない方に適しています。
アンチエイジング(腎虚の改善)に効果が期待できる漢方食材
生薬の中でも身近な食材を「漢方食材」などと呼ぶこともあります。
ここからはアンチエイジング(腎虚の改善)に効果が期待できる漢方食材について解説します。
韮子(にら)
生薬名では韮子(きゅうし)とも呼ばれるにらは、体をあたため、腎のはたらきを補う効果が期待できます。
疲れやだるさがある方向けで、排尿トラブルやED、冷え、腰やひざの痛みがある方にもよいでしょう。
また、にらの香りが気の巡りをよくすることで、イライラなどが気になる方にもよいとされています。
胡桃肉(くるみ)
くるみは、生薬名では胡桃肉(ことうにく)や胡桃仁(ことうにん)とも呼ばれます。
腎のはたらきを助ける作用があり、頻尿や腰痛の改善に役立ちます。
また、くるみは脳によいといわれているオメガ3脂肪酸が豊富。
片手でつかめる量のくるみで、1日に必要なオメガ3脂肪酸が摂取できるとされています。
脂分を含むので、便秘にお悩みの方にもおすすめです。
栗
栗は、耳鳴りや頻尿など、腎の老化に対して効果が期待できる食材です。
体をあたためて腎のはたらきを補うほか、血の巡りをよくして、足腰のだるさなどの改善にもよいとされています。
また、気を補う作用も期待できるため、疲れやすい方や食欲不振の方に適しています。
ただし、栗には不溶性食物繊維が含まれており、過剰に摂取すると便が固くなってしまうことがあるため、便秘気味の方は控えめにしておきましょう。
羊肉
ラムやマトンとも呼ばれる羊肉は、体をあたため、腎のはたらきを補う食材です。
足や腰の冷えはもちろん、冷えによる腹痛や月経不順の改善、吐き気、食欲不振などの改善にもよいとされています。
疲れが取れない方や貧血気味の方、産後の体力を回復したい方にもおすすめ。
また、不飽和脂肪酸やビタミンB・Eが多く含まれているので、美容面でのアンチエイジングの効果も期待できます。
えび
えびには腎の機能を高めるはたらきがあるとされています。
体をあたためてくれるので、冷えのお悩みがある方におすすめ。
老化現象が起こりやすいと言われている寒い時期に最適だと言えます。
ただし、過剰に摂取すると体に熱がこもりやすくなり、胃腸の弱い方や肌が荒れやすい方にはよくありません。
食べ過ぎないように注意しましょう。
牡蠣(かき)
生薬名では牡蠣(ぼれい)とも呼ばれる牡蠣。
精神を安定させる効果が期待でき、寝つきが悪かったり、睡眠不足だったりする方におすすめです。
さらに、滋養強壮の作用もあるため、体が疲れやすいと感じている方にもよいでしょう。
また、殻の部分は多汗症の改善にも利用されることがあり、寝汗をかきやすい方などにもおすすめです。
梨
腎陰(水や血液などの源)が不足すると、のぼせやほてり、睡眠トラブルなどが生じるのは前述した通り。
水分を多く含むナシが体にうるおいを与えることで、それらの症状の改善につながります。
また、喉にもうるおいを与えることから、喉の乾燥や炎症を改善する効果も期待できます。
痰や空咳、口内炎の改善にもよいでしょう。
ただし、生の梨を食べると体を冷やしてしまうため、あたためて食べるのがおすすめです。
特に、冷えが気になる方や胃腸が弱い方は、焼いたり煮たりしてから食べるとよいでしょう。
桃仁(もも)
生薬名では桃仁(とうにん)とも呼ばれる桃も、腎陰の不足によい食材。
血の流れをよくして体を温める効果が期待でき、手足は冷えているのに顔や上半身が熱くなる冷えのぼせや更年期障害、生理痛の改善にも役立ちます。
また、水分を多く含み、体に潤いをもたらすため、乾燥しやすい方におすすめ。
便秘気味の方にもよいでしょう。
黒豆
黒は腎をつかさどる色であることから、黒い食材は腎のはたらきを向上させるといわれています。
性欲が低下してきたと感じる場合は、腎精の不足かもしれません。
性機能を維持したい方や妊娠を希望する方は、黒豆などの黒い食材を摂取するとよいでしょう。
また、黒豆には不要な水分を排出する作用があるため、むくみやすい方にもおすすめ。
眼精疲労やめまいの改善、滋養強壮にもよいとされています。
なお、腎のはたらきをサポートする食べ物として、黒ゴマや黒米なども挙げられます。
海藻類
ひじきや昆布などの海草類は、腎をサポートするだけでなく、白髪や抜け毛によいといわれており、美容面でのアンチエイジング効果が期待できる食材です。
ひじきには血を補うはたらきがあり、貧血や肌の乾燥予防にもつながります。
ただし、熱を冷ます作用もあるため、冷え性の方は食べ過ぎに注意しましょう。
また、不要な水分を排出するはたらきがある昆布は、むくみや下痢、頻尿でお悩みの方におすすめです。
燕窩(ツバメの巣)
生薬名では燕窩(えんか)とも呼ばれるツバメの巣は、腎の機能を補うとされています。
ビタミンやミネラルなどの成分も豊富で、古くから美容や健康によい食材として利用されてきました。
さらに、血液や栄養の巡りをよくするはたらきもあるため、美容面でのアンチエイジングにもよいでしょう。
例えば、皮膚のダメージ修復、弾力アップ、保湿効果、バリア機能アップ、美白効果などの効果が期待できると言われています。
また、ツバメの巣に多く含まれるシアル酸は、免疫力や自然治癒力を高めたり、内臓機能を強化したりする作用があると考えられています。
漢方でアンチエイジングに取り組もう!
漢方においてアンチエイジングに取り組むには、腎虚の改善を目指すことが大事です。
心当たりのある症状があれば、漢方薬や食材を生活に取り入れてみるとよいでしょう。
また、食事の見直しや、運動習慣づくり、ストレス解消などの生活習慣改善も、アンチエイジングにとっては必要です。
なお、漢方薬にも副作用のリスクはあるため、用法用量を守って正しく飲み、異常を感じたら早めに受診してください。